10.2 Attribute
Attribute(アトリビュート)とは、直訳すると属性です。 この昨日は、ソースコードに対して追加の情報をコンパイラに伝え、主にコンパイラの出力する警告文のコントロールに活かされます。 この機能を使う事で、こちらの意図をコンパイラに伝える事ができるため、例えばテストなどを行いたい場合に余計な警告文を抑えるなど、よりプログラマーとコンパイラの親和性を深める事となるでしょう。
10.2.1 基本的な構文
Attributeの基本的な構文を示します。といっても、全くもって単純です。
[[ attribute ]]
[[
と]]
で囲み、その内部に任意のattribute
を記述します。記述箇所は該当する識別子の定義の前です。ここからは、各Attributeとそれらの基本的な使い方を示します。
また、標準化されたAttributeは比較的新しい機能なので、コンパイラやそのバージョンによっては対応していないかもしれません。
対応状況は、標準で定義されるマクロ、__has_cpp_attribute
で確認する事ができます。各属性ごとに、定義される場合の数値を、同時に示します。
10.2.2 deprecated属性
deprecated属性とはその該当する識別子やエンティティがまだ使う事はできるもののその利用を推奨しない事を明示するAttributeです。 これらは、クラス、共有体、typedef、変数、非staticデータメンバー、関数、名前空間、enum、enumerator、テンプレートの特殊化に指定する事ができます。それぞれの記述方法は以下のコードに示されている通りです。
class [[deprecated]] X{ // クラスへのdeprecated
[[deprecated]] void f(); // 非staticデータメンバーへのdeprecated
[[deprecated]] int i; // 非staticデータメンバーへのdeprecated
};
union [[deprecated]] U; // 共有体へのdeprecated
[[deprecated]] typedef int type1; // typedefへのdeprecated
using type2 [[deprecated]] = int; // エイリアス宣言宣言にもtypedefと同じくdeprecatedできる
[[deprecated]] int i; // 変数へのdeprecated
[[deprecated]] void f(); // 関数へのdeprecated
namespace [[deprecated]] ns{} // 名前空間へのdeprecated
enum [[deprecated]] Y{ // enumへのdeprecated
enumerator [[deprecated]] = 0 // enumeratorへのdeprecated
};
template<class>
class Z;
template<>
class [[deprecated]] Z<int>; // テンプレートの特殊化へのdeprecated
deprecated属性が指定された識別子やエンティティを使用するとコンパイラーによって警告メッセージが出力されます。 deprecated属性には、任意の文字列を指定する事が可能で、指定された文字列は警告メッセージに含まれる場合があります(規定されていません)。
// t.cpp
int main()
{
[[deprecated("i is deprecated.Please do not use this...")]] int i;
i=42;
}
GCC 7.0.1でコンパイルした場合、以下のようなメッセージが出力されました。
t.cpp:4:2: warning: 'i' is deprecated: i is deprecated.Please do not use this...
[-Wdeprecated-declarations]
i=42;
^
t.cpp:3:66: note: 'i' has been explicitly marked deprecated here
[[deprecated("i is deprecated.Please do not use this...")]] int i;
^
1 warning generated.
尚、無名名前空間に対してdeprecated属性を指定すると、無視されます。
namespace [[deprecated]]{} // 無視される
尚、__has_cpp_attribute(deprecated)
が定義された場合、その値は201309です。
10.2.3 fallthrough属性
fallthrough属性はswitch文中のcase
内でbreak
が行われなかったとしても、それは意図しているものであるという旨をコンパイラや他のプログラマに伝え、警告を抑止するための属性です。
例えば、switch
文を以下のように記述したとします。
void f(int i)
{
switch(i){
case 1:
// do something
break;
case 2:
// do something
break;
case 3:
// do something
case 4:
// do something
break;
default:
// do something
;
};
}
int main()
{
f(3);
}
賢いコンパイラーはcase 3:
のcase
ラベル内での警告を発するかもしれません。これは、break
やreturn
によってcase
ラベル内で処理が完結せず、上記の場合はcase 3
に差し掛かった後、case 4
がそのまま実行される事となります。これは、誤ってbreak
文を忘れたのか、意図したものなのかはコンパイラーにも自分以外の他のプログラマーにも伝える事ができません(コメントを記述すれば他のプログラマーに伝える事はできるかもしれませんが、言語機能を用いる事が明確性を高めます)。
もし上記のコードが、プログラマーの意図した記述であるとすれば、fallthrough属性を用いる事でコンパイラからの警告を抑止できます。
void f(int i)
{
switch(i){
case 1:
// do something
break;
case 2:
// do something
break;
case 3:
// do something
[[fallthrogh]] // フォールスルーは意図的である事を示す
case 4:
// do something
break;
default:
// do something
;
};
}
int main()
{
f(3);
}
fallthrough属性は、最後のcase
文で指定する事はできません。
switch(i){
case 1:
[[fallthrough]]; // 不適格
}
尚、__has_cpp_attribute(fallthrough)
が定義される場合、その値は201603です。
10.2.4 nodiscard属性
nodiscard属性は、関数の戻り値を捨ててはならない事を指定する属性です。 例えば関数の戻り値にエラーコードの意味合いを含めていた場合、その戻り値を受け取り、エラーチェックをしなかった場合のプログラムは、危険性を孕む可能性があります。 また、戻り値を受け取らなければ意味のない関数も存在します。そのような関数の戻り値をプログラマーに必ず使わせるように促す事ができます。nodiscard属性が付与された関数の戻り値を利用しなかった場合、コンパイラはその旨を警告します。
#include<cstdlib>
[[nodiscard]] void* mallocer(std::size_t size) // 関数の戻り値を利用しなければならない事を指定する
{
return std::malloc(size);
}
int main()
{
int* ptr=static_cast<int*>(mallocer(sizeof(int)));
std::free(ptr);
}
GCC 7.0.1では上記の関数に対して以下のように戻り値を使わなかった場合、
// t.cpp
int main()
{
mallocer(sizeof(int));
}
以下のような警告文を出力します。
t.cpp: In function ‘int main()’:
t.cpp:10:10: warning: ignoring return value of ‘void* mallocer(std::size_t)’, declared with attribute nodiscard [-Wunused-result]
mallocer(sizeof(int));
~~~~~~~~^~~~~~~~~~~~~
t.cpp:3:21: note: declared here
[[nodiscard]] void* mallocer(std::size_t size)
^~~~~~~~
尚、__has_cpp_attribute(nodiscard)
が定義された場合、その値は201603です。
10.2.5 noreturn属性
noreturn属性は、関数が決して返らないことを示すための属性です。
これは、関数が返らないという情報を元にコンパイラが任意の最適化のチャンスを与えると共に、返らない処理をラップした関数にnoreturn属性を付けることで、「関数が返らないパスが存在する」というコンパイラからの警告を抑制するために用います。 例えば以下のようなケースが考えられます。
// t.cpp
#include<stdexcept>
void report_error()
{
throw std::runtime_error("error");
}
int f(int x)
{
if (x>0)return x;
report_error();
}
int main()
{
f(1);
}
if
文の条件によってはreturn x
が処理されますが、そうでない場合はreport_error
関数が実行されます。しかし、report_error関数はvoid
であり、且つそれに対するreturn
文もないため、何も値が返されない、とコンパイラは捉えます。よって、警告文が出力される事があります。
GCC 7.0.1では以下のような警告文が出力されました。
t.cpp: In function ‘int f(int)’:
t.cpp:13:1: warning: control reaches end of non-void function [-Wreturn-type]
}
^
確かに何も値は返されないのですが、report_error
内部で行われているのは例外のスローです。よって、これは返却される必要はないのです。
その旨を明示できるのが、noreturn属性です。
#include<stdexcept>
[[noreturn]] void report_error()
{
throw std::runtime_error("error");
}
int f(int x)
{
if (x>0)return x;
report_error();
}
int main()
{
f(1);
}
尚、一つの翻訳単位でnoreturn属性が指定された関数は他の翻訳単位でも一括してnoreturn属性付きで宣言されなければなりません。 また、noreturn属性が指定された関数から返却された場合、その動作は未定義ですので、noreturn属性の付いた関数から何かを返したりしてはなりません。
尚、__has_cpp_attribute(noreturn)
が定義された場合、その値は200809です。
10.2.6 maybe_unused属性
以下のコードをコンパイルすると警告文が発せられるかもしれません。
// t.cpp
void f(int x)
{}
int main()
{
f(42);
}
GCC 7.0.1では以下のような警告文を出力しました。
t.cpp: In function ‘void f(int)’:
t.cpp:1:12: warning: unused parameter ‘x’ [-Wunused-parameter]
void f(int x)
^
これは、関数f
の仮引数でx
と名付けているのにも関わらず一切その識別子を使わないために出力されます。しかし、意図してこのようにしていた場合は誤った警告文となってしまいます。
maybe_unused属性は、このような名前の付いた識別子を利用しない事が意図したものであるという事をコンパイラに伝えて警告を抑制するための属性です。
void f([[maybe_unused]] int x)
{}
int main()
{
f(42);
}
これらは、クラスの、共有体、typedef、変数、非静的メンバ変数、関数、enum、enumeratorの宣言時に使用する事ができます。それぞれに対する記述場所は、[[deprecated]]
属性と同じ箇所です。
尚、GCC 7.0.1では規格とは異なりますが、[[maybe_unused]]
の代替として[[gnu::unused]]
を使います。
また、__has_cpp_attribute(maybe_unused)
が定義される場合の値は201603で、__has_cpp_attribute([[gnu::unused]])
が定義される場合の値は1です。