11.x constexpr if再考
「第8章 定数」でconstexpr if文について触れましたが、テンプレートの知識をある程度得たところで、再度constexpr ifについて触れて起きます。
constexpr if文はコンパイル時の条件分岐を行う事ができる文法です。構文は以下の通りです。
if constexpr(条件式)
// ...
else if constexpr(条件式)
// ...
else
/// ...
ifキーワードの後、条件式のカッコの前にconstexprキーワードを付与します。このように記述した場合、条件式の値は、bool型に文脈変換された定数式になります。
この機能により、今まではSFINAEや再起で分岐していた処理をif文の形態で実現できるようになります。サンプルコードを以下に示します。
#include<iostream>
void g(){}
template<class T,class... Rest>
void g(T&& p,Rest&&... rs)
{
std::cout<<std::forward<T>(p)<<std::endl;
g(std::forward<Rest>(rs)...);
}
int main()
{
g(42,42,42,42,42,42);
}
実行結果は以下となります。
42
42
42
42
42
42
パラメーターパックを一つずつ減らす事によって、最後の関数gの呼び出しは引数がなくなりますから、引数のない関数gをオーバーロードして呼び出す事となり、再起が終了します。
しかし上記の通り再起を用いた分岐は、視覚的にとても直感的とは言えません。これを、constexpr if文で実現すると以下のように記述できます。
#include<iostream>
template<class T,class... Rest>
void g(T&& p,Rest&&... rs)
{
std::cout<<std::forward<T>(p)<<std::endl;
if constexpr(sizeof...(rs)>0)
g(std::forward<Rest>(rs)...);
}
int main()
{
g(42,42,42,42,42,42);
}
実行結果は同じです。また、constexpr if文でif constexpr~else節を用いてその条件に合わないステートメントは実体化されません。しかし、実体化されないだけで文法的な誤りはチェックされます。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class...>
constexpr int g(){return 42;}
template<class... T>
void f(T&&...)
{
if constexpr(std::conjunction_v<std::is_same<int,T>...>){
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}else{
return g<T...>();
}
}
int main()
{
f(42);
}
関数fのelse節を見てください。関数fはvoidであると宣言していますが、関数gはintを返しますからコンパイルエラーとなっても可笑しくはなさそうです。しかし、このコードはコンパイルエラーとはなりません。何故ならば、先ほども述べた通り、else節はif constexprの条件の合致によって、実体化されないからです。
ここで、例えば引数に与える値をint型`以外の値に変えてみるとどのようになるでしょうか。
int main()
{
f(4.2); // double型の値を渡す
}
すると、GCC7.1.0では以下のようなエラー文が出力されました。
In instantiation of 'void f(T&& ...) [with T = {double}]':
19:10: required from here
13:24: error: return-statement with a value, in function returning 'void' [-fpermissive]
return g<T...>();
^
int型以外の値を渡せば、当然if constexprの条件に合致しないためelse節の内容が実体化されます。すると、関数gが実体化し、関数gが値を返してくるため、その旨をエラーとして教えてくれました。if constexpr`は、このような実体化の防止を作用させる事ができる機能なのです。
if constexprを使う有用な例として、条件にあった型以外を受け取った場合にstatic_assertを発動する例です。まずif constexprを使わずSFINAEで実現した場合は以下のようになります。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class...>
constexpr bool false_v=std::false_type::value;
template<class... T>
constexpr void f(T&&...)
{
static_assert(false_v<T...>,"T is not int !");
}
template<class... T,std::enable_if_t<std::conjunction_v<std::is_same<int,T>...>,std::nullptr_t> =nullptr>
void f(T&&...)
{
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}
int main()
{
f(42);
}
実行結果は以下の通りです。
T is int
関数fで、false_vという変数テンプレートを用いているのは、実体化のタイミングを遅延させるためです。渡されるテンプレート型に依存させる文を含む事で、static_assertをtwo-phase name lookupのタイミングで実体化させています。
if constexprを用いれば、以下のように記述できます。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class...>
constexpr bool false_v=std::false_type::value;
template<class... T>
void f(T&&...)
{
if constexpr(std::conjunction_v<std::is_same<int,T>...> and sizeof...(T)){
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}else{
static_assert(false_v<T...>,"T is not int !");
}
}
int main()
{
f(42);
}
とこのように、false_vにテンプレート引数を渡す事で実体化のタイミングを遅らせていますが、要するにテンプレート引数に依存さえすれば実体化のタイミングを遅延させる事ができるという事なので、例えば以下のようにsizeof演算子に適用する事でも同じ事が実現できます。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class... T>
void f(T...)
{
if constexpr(std::conjunction_v<std::is_same<int,T>...> and sizeof...(T)){
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}else{
static_assert(sizeof...(T)-sizeof...(T),"T is not int!"); // sizeofに適用する事で実体化タイミングをtwo-phase name lookupのタイミングにする
}
}
int main()
{
f(42);
}
まず、sizeof...(T)とする事でTというテンプレート引数に依存する事となるためこの段階でtwo-phase name lookupが適用されます。sizeof...(T)は、Variadic templatesの引数の数を表しますので、その値同士を減算し、必ず0にさせる事でelse節の実行が確定した段階でstatic_assertの発動させます。上記の場合、false_vといったようなヘルパテンプレート変数を定義しなくとも同じ動作を行えるため、コードの記述量を考慮した場合、こちらのコードの方が優秀であると考えられるかもしれませんが、意図をより明確に伝えるために、敢えてfalse_vといったようなヘルパテンプレート変数を定義するなどして利用することは、それもまた1つの良い策と言えるでしょう。
コード量のみ考慮するのであれば、例えばVariadic templateでなかった場合、更に以下のように短く記述できます。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class T>
void f(T)
{
if constexpr(std::is_same_v<int,T>){
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}else{
static_assert(!sizeof(T),"T is not int!");
}
}
int main()
{
f(42);
}
sizeofから返ってくる値は必ず1以上なので、それを!によって反転させることで必ず0となります。よってelse節が確定された段階でstatic_assertが発動します。尚、この手法は、Variadic templatesに対しては適用できません。下記コードは、何も考えずに、先ほどと同じようにVariadic templatesに対してsizeof...(T)を用いたものに!を適用した例です。
#include<iostream>
#include<type_traits>
template<class... T>
void f(T...)
{
if constexpr(std::conjunction_v<std::is_same<int,T>...> and sizeof...(T)){
std::cout<<"T is int"<<std::endl;
}else{
static_assert(!sizeof...(T),"T is not int!");
}
}
int main()
{
f();
}
引数に何も設定していないので、else節が確定します。これは一見、うまくstatic_assertが発動するように思えますが、実際は何事もなくコンパイルが通ってしまいます。これは当然で、あくまでsizeof...(T)がT...
それぞれの型のサイズを表すのではなくVariadic templatesの個数を表すものなので、その数が0であった場合、反転して1となってしまうのです。よってstatic_assertが発動しません。
See also:http://www.open-std.org/JTC1/SC22/WG21/docs/papers/2016/p0292r2.html